病態システム酵素学分野

次世代酵素学研究領域
D-アミノ酸代謝とアポトーシス制御システムを
ターゲットとした疾患酵素科学研究
准教授 加藤 有介
ysk.kt@tokushima-u.ac.jp

1995年 九州大学理学部生物学科 卒業
2002年 東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修了 博士(理学)
2005年 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任助手
2007年 Research Fellow, Astbury Centre for Structural Molecular Biology, University of Leeds
2010年 徳島文理大学健康科学研究所及び人間生活学部 准教授
2014年 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任准教授
2015年 徳島大学疾患酵素学研究センター 准教授
2016年 徳島大学先端酵素学研究所 准教授

研究概要

 これまで生体内には存在しないと考えられていたD-体のアミノ酸(D-セリン)が脳内に存在して、興奮性アミノ酸受容体の作動薬として作用し、D-アミノ酸酸化酵素(DAO)がこの新規神経調節因子D-セリンを代謝すること、また新規アポトーシス制御因子として発見したヌクリングがNF-κBの活性化を制御することを見出しています。そこで、これらの生体機能調節因子の機能と病態に関する研究を行い、統合失調症や発癌(脳腫瘍・乳癌)の病態解明と治療薬の開発を目指しています。

統合失調症におけるD-アミノ酸酸化酵素の病態生理学的意義の解明と酵素創薬による新規治療法の開発への挑戦

 興奮性アミノ酸受容体のサブタイプ(NMDA受容体)のコアゴニストとして働く新規神経調節因子D-セリンとその代謝酵素として位置づけられるD-アミノ酸酸化酵素の病態生理学的な意義の解明を目的として、脳内在性D-セリンの代謝とその代謝産物の作用に関する検討を行っています。DAOはD-セリンの代謝分解を介して、グルタミン酸神経伝達の調節に関与していると想定され、統合失調症の疾患感受性を規定する遺伝子の一つであります。我々は、ヒトDAO遺伝子の転写因子としてPAX2とPAX5を初めて同定し、それらが作用する2つのプロモーター領域の同定を行いました。さらに、PAX2及びPAX5が関与する2つのプロモーターの使い分けによってヒトDAO遺伝子発現が調節される可能性を示唆しています。また、ヒト脳内におけるDAOの発現解析から、その発現が統合失調症患者で上昇している傾向にあることを見出しました。この結果は、統合失調症の病態において、D-セリンの減少に起因するグルタミン酸神経伝達の機能不全が引き起こされている可能性を示すものでありました。現在、酵素活性阻害剤の探索を、様々な天然有機物を含む化合物のライブラリーのスクリーニングにより行っており、NMDA受容体の機能異常による統合失調症などの病態に対する新規治療薬の開発による酵素創薬を目指しています。

計算科学を利用した新しいタンパク質機能解析と創薬研究

 タンパク質の立体構造情報は、新規治療薬を開発する上で非常に重要です。統合失調症の新規治療薬開発を目的として、その発症の鍵を握るG72タンパク質の立体構造の予測に成功しました。創薬開発に資する新規方法論の改良を進め、さらに精度の高い構造を予測することを目指しています。

アポトーシス制御の分子機構の解明による新規乳癌治療戦略の構築

 ヌクリング分子は、アポトーシス経路を正に制御して細胞死を誘導します。離乳後の乳腺組織の退縮の過程は、乳腺が妊娠前の状態に戻るのに必要な生理学的プロセスであり、我々はヌクリングがNF-κBとSTAT3の調節を介した新しいアポトーシス制御システムにより乳腺退縮を制御することを明らかにしました。乳腺退縮の生理学的調節機構を利用した、新たな乳癌治療戦略の構築を目指しています。

図1.D-セリンの過剰投与により惹起される細胞死に過酸化水素とともにβ-hydroxypyruvateも関与する可能性が示唆された。また、β-hydroxypyruvateによる細胞死は腎臓、肝臓由来の細胞ではなく、アストログリア細胞に顕著に認められる。

図2.新規タンパク質構造予測法の開発(左図)と、ヌクリングによる乳腺退縮の制御(右図)
(左図)G72タンパク質は、DAOと相互作用することで、統合失調症の発症に関係すると考えられている。その立体構造は、従来の手法で解析することが困難であったため、新規構造予測手法を開発し、G72の2つのドメイン構造の予測に成功した。
(右図)新規アポトーシス関連タンパク質であるヌクリングのKOマウス(右)では、乳腺は正常な発達を示したが、乳腺の退縮過程が野生型マウス(左)に比して遅れることが明らかとなった。

最近の主要論文

  1. Kim SH, Shishido S, Sogabe H, Rachadech W, Yorita K, Kato Y, Fukui K.
    Age- and gender-dependent D-amino acid oxidase activity in mouse brain and peripheral tissues: implication for aging and neurodegeneration
    J. Biochem. in press
  2. Kato Y, Hin N, Maita N, Thomas AG, Kurosawa S, Rojas C, Yorita K, Slusher BS, Fukui K, Tsukamoto T.
    Structural basis for potent inhibition of D-amino acid oxidase by thiophene carboxylic acids
    E. J. Med. Chem. 159: 23-34 (2018)
  3. Kohiki T, Kato Y, Nishikawa Y, Yorita K, Sagawa I, Denda M, Inokuma T, Shigenaga A, Fukui K, Otaka A.
    Elucidation of inhibitor-binding pockets of D-amino acid oxidase using docking simulation and N-sulfanylethylanilide-based labeling technology,
    Org. Biomol. Chem. 15: 5289-5297(2017)
  4. Kato Y, Fukui K.
    Structure models of G72, the product of a susceptibility gene to schizophrenia.
    J. Biochem. 161: 223-230 (2017)
  5. Shibuya N, Koike S, Tanaka M, Ishigami-Yuasa M, Kimura Y, Ogasawara Y, Fukui K, Nagahara N, Kimura H.
    A novel pathway for the production of hydrogen sulfide from D-cysteine in mammalian cells.
    Nature Commun.4: e1366 (2013)

スタッフ

助教:宍戸 裕二

2002年 新潟大学脳研究所 ポスドク
2010年 徳島大学疾患酵素学研究センター 助教(現職に至る)