蛋白質発現分野

プロテオゲノム研究領域
ミトコンドリアの構造と機能の理解を通じて
疾病発症におけるその役割を考える
教授 篠原 康雄
yshinoha@genome.tokushima-u.ac.jp

1990年 徳島大学大学院薬学研究科 博士後期課程修了、薬学博士
1990年 徳島大学薬学部 助手
1993年 徳島大学薬学部 助教授
2002年 ゲノム機能研究センター 教授、薬学部教授を兼務
2016年 徳島大学先端酵素学研究所教授、薬学部教授を兼務

研究概要

 ミトコンドリアは細胞内でエネルギー変換の場として働いているだけでなく、細胞の生死の制御にも関わっていることが明らかにされてきました。従って、ミトコンドリアは多くの疾病の発症と密接に関わっていると考えられ、ミト
コンドリアの機能を人為的に制御することができれば、新たな疾病治療法の確立に繋がる可能性を秘めています。
 私どもの研究室ではミトコンドリアの構造と機能、とりわけ①内膜の透過性変化の分子メカニズムと透過性亢進に伴ったミトコンドリアタンパク質の漏出、②外膜を介した分子の移動に関わるとされる電位依存性アニオンチャネル(VDAC)とカルニチンパルミトイル転移酵素1(CPT1)、および③内膜の輸送体の構造と機能に焦点をあてた研究を進めています。

 ①の課題に関する最近の研究成果としては、これまで酵母のミトコンドリアにCa2+を添加しても透過性の亢進(透過性遷移)は起きないと報告されていましたが、酵母のミトコンドリアでも哺乳類のミトコンドリア同様にCa2+の添加によって透過性遷移を誘起することができることを見出しました(Biochim Biophys Acta, 2009年)。また、透過性遷移はシトクロムcをはじめとするアポトーシス関連タンパク質の漏出に関わっていますが、ミトコンドリアからのタンパク質漏出方法には外膜の透過性だけが高まる場合と、内外の両方の膜の透過性が高まる場合があることを明らかにしました(Mol Cell Proteomics, 2009年)。更に、透過性遷移の誘導メカニズムに関しては、ミトコンドリアのタンパク質の役割ばかり議論されがちですが、脂質膜の重要性を指摘することができました(FEBS J, 2014年、Arch Biochem Biophys, 2018年)。

 また、②のVDACについては、哺乳類では構造の類似した3つのアイソフォームが発現しており、ミトコンドリアにどのアイソフォームがどれだけ発現しているのかという基本的な問題が永らく未解決でしたが、山本らの研究によってこの問題に対する明快な回答を得ることができました。また、哺乳類のゲノムにはVDAC1の偽遺伝子が多く存在しており、マウスとラットでは遺伝的に保存された(syntenyな)偽遺伝子が3つ存在することを明らかにすることができ、syntenyな関係が種の進化のプロセスの理解だけでなく、偽遺伝子の同定にも役立つことを明らかにしました(Genomics,2014年)。一方、CPT1については機能評価が困難なため、まだ十分に研究が進んでいません。同酵素の機能評価の第一歩として、哺乳類の細胞と酵母細胞を用いた発現系のキャラクタリゼーションを進めました(Protein Expr Purif, 2012年)。

 ③の内膜の輸送体に関する研究課題としては、界面活性剤で可溶化された輸送体がヒドロキシアパタイトに結合しないという物性を示すことに注目してプロテオミクスと組換え体を用いた解析を展開し、結合しない理由について分子レベルで説明することができました(JChromatogrA,2013年)。また、H24年からは農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業として支援を受け、異種生物のミトコンドリアの内膜の輸送体を酵母に機能発現させる研究に取り組んでいます。最近の成果として、哺乳類のミトコンドリアのCa2+ユニポーターを酵母に機能発現させることができ、その構造と機能特性を明らかにすることができたこと(Biochim Biophys Acta, 2016年)、および哺乳類ミトコンドリアのリン酸輸送体を酵母のミトコンドリアに機能発現させることに成功し、異種生物のミトコンドリアのタンパク質を酵母で機能発現させるために重要な因子の理解を深めることができたことが挙げられます(Mitochondrion, 2017年)。

酵母における発現系を用いて明らかにされた哺乳類のCa2+ユニポーターの構造と機能
Ca2+ユニポーターの機能発現にはMCUとEMREの2つのサブユニットが必須である。EMREのSer85~Ala90、Pro60がMCUとの相互作用に関与しており、両者が相互作用することで初めてCa2+輸送活性を発現することが明らかになった。

最近の主要論文

  1. Yamamoto T, Tsunoda M, Ozono M, Watanabe A, Kotake K, Hiroshima Y, Yamada A, Terada H,
    Shinohara Y.
    Polyethyleneimine renders mitochondrial membranes permeable by interacting with negatively
    charged phospholipids in them.
    Arch Biochem Biophys. 652: 9-17 (2018)
  2. Hiroshima Y, Yamamoto T, Watanabe M, Baba Y, Shinohara Y.
    Effects of cold exposure on metabolites in brown adipose tissue of rats.
    Mol Genet Metab Rep. 15: 36-42 (2018)
  3. Yamagoshi R, Yamamoto T, Hashimoto M, Sugahara R, Shiotsuki T, Miyoshi H, Terada H, Shinohara Y.
    Identification of amino acid residues of mammalian mitochondrial phosphate carrier important for its
    functional expression in yeast cells, as achieved by PCR-mediated random mutation and gap-repair cloning.
    Mitochondrion. 32:1-9 (2017)
  4. Yamamoto T, Yamagoshi R, Harada K, Kawano M, Minami N, Ido Y, Kuwahara K, Fujita A, Ozono M,
    Watanabe A, Yamada A, Terada H, Shinohara Y.
    Analysis of the structure and function of EMRE in a yeast expression system.
    Biochim Biophys Acta. 1857:831-9 (2016)
  5. Yamamoto A, Hasui K, Matsuo H, Okuda K, Abe M, Matsumoto K, Harada K, Yoshimura Y,
    Yamamoto T, Ohkura K, Shindo M, Shinohara Y.
    Bongkrekic acid analogue, lacking one of the carboxylic groups of its parent compound, shows
    moderate but pH-insensitive inhibitory effects on the mitochondrial ADP/ATP carrier.
    Chem Biol Drug Des. 86:1304-22 (2015)

スタッフ

講師:山本 武範

2007年 徳島大学大学院薬学研究科博士後期課程修了 博士(薬学)
2008年 徳島大学疾患ゲノム研究センター 助教
2013年 現職

特任助教:井戸佑介

2015年 徳島大学大学院薬科学教育部博士後期課程修了 博士(薬学)
2017年 産総研健康工学研究部門博士研究員
2018年 現職