キラーT細胞を産生するメカニズムの解明

ウイルス感染細胞や癌細胞を攻撃するキラーT細胞となるCD8T細胞は、胸腺で産生されます。胸腺ではまず、ウイルス等の非自己成分を認識できるT細胞が皮質領域における「正の選択」で選別されます。その後、自己生体成分にも反応してしまう有害な細胞が、髄質領域における「負の選択」による細胞死の誘導により除去されます。胸腺でのこれらの「選択」により、外来抗原に応答し、かつ、自己成分に寛容なT細胞集団が形成されます。
T細胞の正・負の選択は、抗原提示細胞が提示する自己抗原と抗原提示分子の複合体をT細胞が認識することにより誘導されます。「正の選択」の場である皮質では、胸腺プロテアソームが自己抗原の産生を担っており、胸腺プロテアソームを欠損するとCD8T細胞の数が減少します。一方、「負の選択」を惹起する自己抗原産生は、主に免疫プロテアソームが担います。近年、「正の選択を受けたT細胞が負の選択を免れるために、それぞれの選択の惹起には、異なるプロテアソームが産生する異なる自己抗原の提示が重要である」という説が提唱されました。胸腺プロテアソームを欠損すると、皮質と髄質で同じ種類のプロテアソームが自己抗原を産生するので、この説が正しいのなら、胸腺プロテアソーム欠損におけるCD8T細胞の減少は、「正の選択」を受けたT細胞の「負の選択」による除去が亢進するためである、ということになります。
私達の研究では、まず、胸腺プロテアソーム欠損マウスでは、T細胞は、皮質領域に存在し、かつ、「負の選択」の場である髄質領域に移動する前の段階で既に減少していることを見出しました。さらに、胸腺髄質を欠損するマウスや、負の選択を抑制したマウスでのCD8T細胞の生成について検討したところ、胸腺プロテアソーム欠損によるCD8T細胞の産生低下が検出されました。これらのことから、胸腺プロテアソームによる自己抗原の産生は、正の選択に直接的に寄与しており、負の選択には関与しないことが明らかになりました。CD8T細胞生成における胸腺プロテアソームの役割についての理解を深めたこの研究成果は、キラーT細胞の機能を増強し、癌に対する免疫療法など、臨床医学への応用に貢献することが期待されます。
なおこの研究は、徳島大学先端酵素学研究所、徳島大学大学院医歯薬学研究部、アメリカ国立衛生研究所との共同研究です。

PubMed ID: 33555295
The thymoproteasome hardwires the TCR repertoire of CD8+ T cells in the cortex independent of negative selection
Ohigashi I, Frantzeskakis M, Jacques A, Fujimori S, Ushio A, Yamashita F, Ishimaru N, Yin D, Cam M, Kelly MC, Awasthi P, Takada K, Takahama Y.
Journal of Experimental Medicine, (2021), 218:e20201904, doi: 10.1084/jem.20201904.