正常な精子形成に必須なプロテアソーム結合タンパク質の同定

プロテアソームはタンパク質を分解し、細胞内タンパク質の恒常性維持や免疫応答など、様々な生命現象において重要な役割を担う酵素複合体です。私達の研究室では、中枢免疫器官である胸腺を構成する胸腺上皮細胞で高発現する分子の中で、機能が全く明らかにされていないPITHD1に着目し、生体内での機能を解明するためにPITHD1を欠損するマウスを作製しました。PITHD1はプロテアソームに結合しうる領域を有していますが、胸腺で発現するプロテアソームには結合せず、PITHD1欠損マウスの胸腺では、明らかな異常は観察されませんでした。しかし、マウスの交配において、雄マウスがPITHD1欠損である場合、仔ができないことに気がつきました。そこで、精子の詳細な解析を行なったところ、PITHD1欠損マウスでは、精子の形態異常と運動能低下が検出され、不妊を発症することが明らかになりました。また、PITHD1は精巣で発現する免疫プロテアソームに結合し、PITHD1欠損マウスの精子では、プロテアソーム活性の低下と、生殖機能に関わるタンパク質の量的変動が検出されました。これらの結果から、PITHD1は、雄性生殖システムにおいて重要な役割を担っていることが明らかになりました。PITHD1はヒトの精子でも発現しており、この研究成果は、男性不妊の原因となる分子機構の解明、および、治療法開発につながると期待されます。
なおこの研究は、徳島大学先端酵素学研究所、大阪大学微生物病研究所、理化学研究所との共同研究です。

PubMed ID: 31915251
PITHD1 is a proteasome-interacting protein essential for male fertilization.
Kondo H, Matsumura T, Kaneko M, Inoue K, Kosako H, Ikawa M, Takahama Y, Ohigashi I.
Journal of Biological Chemistry (2020), 295: 1658-1672. doi: 10.1074/jbc.RA119.011144.