ゲノム制御学分野

プロテオゲノム研究領域
包括的ゲノム解析を通じた
がん発症・進展機構の解明と個別化医療への応用
教授 片桐 豊雅
tkatagi@genome.tokushima-u.ac.jp

1991年 香川大学大学院 修士課程・1998年 大阪大学 医学博士
1991年 大塚製薬株式会社 研究員
1995年 癌研究会癌化学療法センター 研究員
1998年 英国ロンドン大学 リサーチフェロー
2001年 東京大学医科学研究所 助手・助教授
2008年 徳島大学疾患ゲノム研究センター 教授
2016年 徳島大学先端酵素学研究所 教授

研究概要

 現在、本邦において死亡原因の第1位はがんであり、がんを罹患する生涯リスクは2人に1人、死亡率は3人に1人であることからも、がんの予防、早期診断法・新規治療法の開発、個別化医療の確立が急務です。がんはゲノムの異常の蓄積によって発症・進展することが分かっており、さらに網羅的遺伝子発現解析・遺伝子多型解析・シーケンス解析技術の発展を通じて、がん研究そのものが大きな変革期を迎えています。今後は、包括的ゲノム情報解析によりがんのゲノム異常を突き止めることで、患者、各個人に応じた予防、診断・治療法の開発を目指す「PrecisionMedicine」が進められていきます。
 当研究室では、上述の包括的ゲノム解析を通じて同定した、がん細胞において特異的に機能する(変異を有する)「がん特異的機能分子」の詳細な機能解析を進めて、それらの成果を通じて、乳がん、腎臓がん、膀胱がんをはじめとしたがんの発症・進展機構の解明および新規治療薬および診断薬の開発を目指しています。

がん特異的機能分子の機能解析を通じた治療薬の開発
新規エストロゲン受容体活性化制御分子 BIG3の機能解析

 現在、がん特異的機能分子の1つとして、新規エストロゲンシグナル制御分子BIG3に着目しています。乳がんの約70%はエストロゲン依存性で、その治療には主にホルモン療法が行われていますが、長期服用による耐性獲得や不応性の患者もあり、エストロゲン制御機構の詳細な解明、新規治療薬の開発が望まれています。私たちは、これまでに、BIG3がエストロゲン受容体(ER)抑制因子PHB2と相互作用し、その抑制機能を制御することを通じてエストロゲン依存性乳がん細胞増殖の中心的な役割を担うことを初めて明らかにしました。さらに、BIG3-PHB2の結合阻害ドミナントネガティブペプチド(ERAP)の樹立と、分子内架橋型ERAP(stapled ERAP)の開発に成功し、エストロゲン依存性乳がん、特に抗エストロゲン剤であるタモキシフェン耐性乳がんに抗腫瘍効果を認めることを明らかにしました。現在、BIG3の生理的・病態的機能解明およびBIG3標的治療薬の臨床開発を目指しています。

新規核小体制御分子DDX31の機能解析

 腎細胞がんにて高頻度に発現亢進を認め、正常臓器では発現の極めて低い新規核小体制御分子DDX31に着目しています。私たちは、この分子が癌抑制機能を有するNPM1と核小体で結合することで、DNA損傷などのストレス依存性のNPM1の核質移行を阻害し、NPM1によるHdm2のp53分解阻害の抑制を明らかにしました。この結果は、腎細胞がんにおけるDDX31による新しいp53の不活化機構を示唆するものです。さらに、膀胱癌において変異型p53とのDDX31の相互作用による悪性進展化への関与も明らかとなりました。現在、DDX31の新たな機能制御とDDX31標的治療薬開発を進めています。

トリプルネガティブ乳がんおよび家族性乳がんの新規関連遺伝子の同定

 現在、乳がんでは予後不良で、治療標的の存在しないホルモンレセプター(エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR))陰性・Her2陰性のトリプルネガティブ乳がんの存在が深刻な問題となっています。また、家族性乳がん原因遺伝子として同定されたBRCA1,BRCA2の変異を有する遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)は全遺伝性乳癌患者の約60%程度ですが、他の原因遺伝子を有するHBOCの原因遺伝子はまだ同定されていません。現在、網羅的遺伝子発現解析および次世代シーケンス解析より、このトリプルネガティブ乳がんの発症・進展関連分子の同定および家族性乳がん原因遺伝子の同定と機能解析による分子機構の解明と創薬研究を進めています。

当研究室の研究戦略
発現情報解析・体系的多型情報解析・次世代シーケンス解析などの包括的ゲノム解析により、臨床的観点からがんの発症機構の解明およびゲノム創薬のためのがん関連(特別な機能)遺伝子の同定と機能解析を進めています。

最近の主要論文

  1. Daizumoto K, Yoshimaru T, Matsushita Y, Fukawa T, Uehara H, Ono M, Komatsu M, Kanayama H, *Katagiri T.
    A DDX31/mutant-p53/EGFR axis promotes multistep progression of muscle invasive bladder cancer. Cancer Res., 78 : 2233-47 (2018).
  2. Yoshimaru T*, Aihara K, Komatsu M, Matsushita Y, Okazaki Y, Toyokuni S, Honda J, Sasa M, Miyoshi Y, Otaka A, Katagiri T*.
    Stapled BIG3 helical peptide ERAP extends potent antitumor activity for breast cancer therapeutics.
    Sci Rep. 7: 1821 (2017)
  3. Yoshimaru T, Ono M, Bando Y, Chen YA, Mizuguchi K, Shima H, Komatsu M, Imoto I, Izumi K, Honda J, Miyoshi Y, Sasa M, Katagiri T*. 
    A-kinase anchoring protein BIG3 coordinates oestrogen signaling in breast cancer cells.
    Nat Commun. 8: 15427 (2017)
  4. Yoshimaru T, Komatsu M, Matsuo T, Chen YA, Murakami Y, Mizuguchi K, Mizohata E, Inoue T, Akiyama M, Miyoshi Y, Sasa M, Nakamura Y, Katagiri T*.
    Targeting BIG3-PHB2 interaction to overcome tamoxifen resistance in breast cancer cells.
    Nat Commun. 4:2443 (2013)
  5. Fukawa T, Ono M, Matsuo T, Uehara H, Miki T, Nakamura Y, Kanayama H, Katagiri T*.
    DDX31 regulates the p53-HDM2 pathway and rRNA gene transcription through its interaction with NPM1 in renal cell carcinomas.
    Cancer Res.72:5867-77 (2012)

スタッフ

講師:吉丸 哲郎

2000年 九州大学大学院農学研究科博士課程修了 農学博士
2010年 徳島大学疾患ゲノム研究センター 特任助教
2013年 徳島大学疾患プロテオゲノム研究センター 助教
2016年 現職

助教:松下 洋輔

2009年 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科博士後期課程修了 薬学博士
2015年 徳島大学疾患プロテオゲノム研究センター 特任研究員
2016年 現職

特任助教:相原 仁

2005年 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科博士後期課程修了 医学博士
2018年 現職