細胞情報学分野

基幹研究部門
リン酸化やセカンドメッセンジャーによる
細胞内シグナル伝達機構を最先端技術で解明する
教授 小迫 英尊
kosako[@]tokushima-u.ac.jp

1996年 東京大学大学院理学系研究科 生物化学専攻修了 博士(理学)
1996年 愛知県がんセンター研究所生化学部 研究員
2000年 東京大学大学院医学系研究科神経生物学教室 助手
2002年 東京大学医科学研究所細胞ゲノム動態解析寄付研究部門 助手(後に助教)相当
2008年 徳島大学疾患酵素学研究センター疾患プロテオミクス研究部門 准教授
2014年 徳島大学藤井節郎記念医科学センター細胞情報学分野 教授
2016年 徳島大学先端酵素学研究所 教授

研究概要

 私たちの研究室では、リン酸化を中心とした翻訳後修飾や新規セカンドメッセンジャーによる様々な細胞内シグナル伝達系の分子機構の解明を目指しています。このために、プロテオーム解析をはじめ、相互作用解析やイメージングなどの種々の技術を開発・導入しています。徳島大学にオープンラボ方式で新設された藤井節郎記念医科学センターにおいて、多くの共同研究者の協力を得て、現在は特に疾患の原因となる複数のタンパク質キナーゼの標的基質の大規模同定と生理・病理機能の解明を進めています。

リン酸化プロテオーム解析法の開発によるタンパク質キナーゼの標的基質の大規模同定と機能解明

 細胞内において、多くのタンパク質はタンパク質キナーゼによるリン酸化とホスファターゼによる脱リン酸化という可逆的な制御を受けています。タンパク質のリン酸化は負電荷と親水性の付与によってタンパク質の酵素活性・局在・安定性・相互作用などをダイナミックに制御することが可能であり、真核生物において最も広範に認められる翻訳後修飾です。このためタンパク質キナーゼはヒトにおいて500種類以上と数多く存在し、様々な細胞内シグナル伝達系で中心的な役割を果たしています。タンパク質キナーゼをコードする遺伝子の変異は癌・パーキンソン病・ダウン症候群・心不全などの疾患と深く関連することが知られており、さらに炭疽菌・らい菌・赤痢菌などの多くの病原性細菌が特定のキナーゼを標的にしていることが最近明らかにされています。
 個々のキナーゼの生理・病理機能を理解し、診断・創薬などの応用研究に役立てるためには、複雑で精緻なリン酸化ネットワークの全貌を解明することが必要になります。当研究室ではERK/MAPキナーゼやG蛋白質共役7回膜貫通型受容体キナーゼ(GRK)、および家族性パーキンソン病の原因遺伝子産物PINK1などをモデルとして、我々が独自に開発しつつあるリン酸化プロテオーム解析法によってその標的基質を大規模に同定してきました。そして興味深い新規基質のリン酸化の生理・病理機能を様々な相互作用解析やイメージング技術などを駆使して解明することを目標としています。

核膜孔複合体の翻訳後修飾による核―細胞質間物質輸送などの細胞機能の制御

 ヒトの体内では毎分1kg以上もの物質が細胞質と核の間を行き来きしており、これらは全て核膜を貫通する核膜孔を通路としています。約40kDa以上のサイズのタンパク質や核酸が通過するためにはインポーティンファミリータンパク質などの輸送運搬体の働きが必要です。この輸送運搬体と核膜孔との相互作用を介した核―細胞質間の選択的物質輸送は、真核生物にとって多様な生理・病理現象に関与する重要な細胞内プロセスの一つであり、核内への薬物送達システムの開発においても大きな課題となっています。しかしながら、細胞内シグナル伝達によるこの輸送経路の制御機構は殆ど明らかにされていません。私たちは最近、ERK/MAPキナーゼが核膜孔複合体構成因子(ヌクレオポリン)をリン酸化することで輸送運搬体との相互作用を抑制し、核―細胞質間輸送を制御する可能性を示しました。現在、リン酸化、グリコシル化、ユビキチン化などの翻訳後修飾による核膜孔複合体の調節機構について、プロテオーム解析やイメージングなどの手法を用いて包括的に解明することを目指しています。

新規セカンドメッセンジャーcyclic GMP-AMPによる自然免疫誘導機構

 cyclicAMPなどの環状ヌクレオチドは、セカンドメッセンジャーとして生体内で重要な役割を担っています。私たちは最近、非常にユニークな構造をとる新規環状ジヌクレオチドcyclicGMP-AMP(cGAMP)が哺乳類体内に存在することを見出しました。cGAMPは自然免疫シグナルにおいてセカンドメッセンジャーとして働くことが分かってきましたが、その詳細な作用機構は明らかになっていません。興味深いことに、細菌には多様な生理活性を有する別の環状ジヌクレオチドが存在します。cGAMPの生理作用、特に現在は自然免疫応答における役割に注目した研究を展開しており、哺乳類における環状ジヌクレオチドの生物学的重要性を明らかにすることを目標としています。

プロテオーム解析(左上:2D-DIGE法による細胞内タンパク質の差異解析、右上:質量分析計を用いたペプチドのリン酸化部位の同定)、相互作用解析(左下:Bead Haloアッセイによるin vitroでのタンパク質間相互作用の可視化)、およびイメージング解析(右下:超解像顕微鏡を用いた核膜孔複合体の観察)などの様々な技術を駆使することにより、細胞内における多彩なシグナル伝達系の分子機構の解明を進めています。

最近の主要論文

  1. Motani K, Kosako H. BioID screening of biotinylation sites using the avidin-like protein Tamavidin 2-REV identifies global interactors of stimulator of interferon genes (STING).
    J Biol Chem 295: 11174-11183 (2020)
  2. Sakuragi T, Kosako H, Nagata S. Phosphorylation-mediated activation of mouse Xkr8 scramblase for phosphatidylserine exposure.
    Proc Natl Acad Sci USA 116: 2907-2912 (2019)
  3. Motani K, Kosako H. Activation of stimulator of interferon genes (STING) induces ADAM17-mediated shedding of the immune semaphorin SEMA4D.
    J Biol Chem 293: 7717-7726 (2018)
  4. Sato M, Sato K, Tomura K, Kosako H, Sato K. The autophagy receptor ALLO-1 and the IKKE-1 kinase control clearance of paternal mitochondria in Caenorhabditis elegans.
    Nat Cell Biol 20: 81-91 (2018)
  5. Akabane S, Uno M, Tani N, Shimazaki S, Ebara N, Kato H, Kosako H, Oka T. PKA Regulates PINK1 Stability and Parkin Recruitment to Damaged Mitochondria through Phosphorylation of MIC60.
    Mol Cell 62: 371-384 (2016)
  6. Koyano F, Okatsu K, Kosako H, Tamura Y, Go E, Kimura M, Kimura Y, Tsuchiya H, Yoshihara H, Hirokawa T, Endo T, Fon EA, Trempe JF, Saeki Y, Tanaka K, Matsuda N. Ubiquitin is phosphorylated by PINK1 to activate parkin.
    Nature 510: 162-166 (2014)

スタッフ

講師:茂谷 康

2011年 金沢大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)
2011年 京都大学大学院医学研究科 GCOE特定研究員
2013年 日本学術振興会特別研究員(PD)
2014年 藤井節郎記念医科学センター 助教
2019年 現職

助教:吉川 治孝

2011年 東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程修了 博士(農学)
2011年 東京農工大学・首都大学東京 博士研究員
2014年 英国ダンディー大学 博士研究員
2020年 現職

特任技術員:西野 耕平

2020年 現職

教務補佐員:梶本 真弓美

2020年 現職

教務補佐員:河野 恵

2020年 現職

教務補佐員:岩田 真由美

2020年 現職