リエゾンオフィス

技術開発支援部門
『疾患の根本理解』と『研究成果の社会還元』の両輪でイノベーションを目指す
准教授 沢津橋 俊
shun-sawa2[@]tokushima-u.ac.jp

2005年 東京大学大学院農学生命科学研究科 博士課程修了 博士(農学)
2006年 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業 研究員
2010年 群馬大学生体調節研究所 助教
2014年 徳島大学藤井節郎記念医科学センター 特任助教
2016年 徳島大学先端酵素学研究所 特任講師
2022年 株式会社セツロテック 取締役
2022年 徳島大学先端酵素学研究所 准教授

研究概要

 リエゾンオフィスは、所内における共同研究テーマ、技術シーズ等を把握し、その成果を社会に還元することをミッションのひとつとし、2022年9月よりスタートしました。所内外の研究交流促進とアウトリーチ活動のため、シンポジウム・セミナー・インタビュー・ヒアリングを実施し、産学連携の推進及び知財獲得を進め、トランスレーショナルリサーチや大学発ベンチャー支援に努めています。加えて、基礎医学研究の促進に不可欠な技術の開発、ならびに健康長寿社会の実現に向けた難治性疾患の根本的理解と治療法の開発を目指します。チームに参加したい方、シーズを活用したい企業の方からの連絡をお待ちしています。

 個体を構成する多様な細胞において、ゲノム情報から特定の遺伝子情報を読み出すことは、その細胞の個性を規定し機能するために不可欠です。私たちが研究対象とするビタミンDやグルココルチコイドは、それぞれのレセプター型転写因子を介して遺伝子発現をコントロールし、増殖・分化や細胞死といった細胞の運命を決定していますが、特定の遺伝子情報を読み出す仕組みについては未だに分かっていません。私たちは、ゲノム編集技術を利用して樹立したモデル生物・細胞を対象に、プロテオミクス技術や光遺伝学的手法を用いることによって、その分子メカニズムを解明します。

ビタミンD受容体の二面的遺伝子発現機能の解明

 ビタミンDは栄養素かつ体内で合成される内分泌ホルモンで、血中ビタミンD濃度は骨代謝や新血管系、免疫系、脂質代謝に影響し、その低値はがん、メタボリックシンドローム、糖尿病、認知症との関連が示唆されています。また、ビタミンD受容体遺伝子の不活性型変異に起因するビタミンD依存性くる病/骨軟化症では、骨変形とともに禿頭が認められ、その治療法は存在していません。私たちはこの疾患モデルマウス・細胞を作出し、イメージングと1細胞RNA発現解析やプロテオーム解析から、毛髪の再生過程の破綻に繋がるステージと細胞群を明らかにしました(図、Joko et. al., 2023)。カルシウム・リン代謝を担うビタミンD依存的な機能と、毛髪の恒常性を担うビタミンD非依存的な機能、この2つの機能を各々の細胞種で使い分ける仕組みの解明に取り組み、遺伝子情報を読み出すステップの理解へと繋げます。

細胞内代謝状態によるグルココルチコイド受容体の転写機能スイッチ機構の解明

 グルココルチコイドは低血糖など種々のストレスに応答して分泌され、糖新生、脂質分解、タンパク質異化などの生体恒常性を司る内分泌ホルモンであるとともに、抗炎症・免疫抑制といった薬理作用を有する薬剤として汎用されています。臨床応用から70年近く経た現在も、その詳細な作用機序は不明なため副作用の克服が課題であり続けています。私たちはグルココルチコイド受容体の機能は細胞内の代謝状態に応じて変化することを見出しており、そのスイッチング機構を理解することで、諸刃の剣と称される作用・副作用の分離を目指します。

統合細胞核動態研究の創出:遺伝子発現におけるメゾスケール核内複合体の機能解明

 近年、時空間的なゲノム情報の制御を『膜のない構造体』が担っていると考えられおり、液―液相分離が核内現象として注目を集めています。時空間的な遺伝子発現において転写因子と転写共役因子は多様な複合体を形成しますが、これらの分子が互いを引き寄せたり、引き離したりするメカニズムについては分かっていません。私たちは光遺伝学的手法により相分離活性を測定し、転写共役因子が形成するメゾスケール複合体を同定する新たな技術を開発し、そのコアマシナリーを解明することに挑戦しています。この解明から転写共役因子の集積が、ゲノムから特定の遺伝子情報を読み出すメカニズムの理解へと繋げます。

最近の主要論文

  1. Joko Y, Yamamoto Y, Kato S, Takemoto T, Abe M, Matsumoto T, Fukumoto S, Sawatsubashi S. VDR is an essential regulator of hair follicle regression through the progression of cell death. Life Sci Alliance. accepted, 2023
  2. Dong B, Hiasa M, Higa Y, Ohnishi Y, Endo I, Kondo T, Takashi Y, Tsoumpra M, Kainuma R, Sawatsubashi S, Kiyonari H, Shioi G, Sakaue H, Nakashima T, Kato S, Abe M, Fukumoto S, Matsumoto T. Osteoblast/osteocyte-derived interleukin-11 regulates osteogenesis and systemic adipogenesis. Nat Commun. 13 (1) 7194, 2022
  3. Takashi Y, Kosako H, Sawatsubashi S, Kinoshita Y, Ito N, Tsoumpra MK, Nangaku M, Abe M, Matsuhisa M, Kato S, Matsumoto T, Fukumoto S. Activation of unliganded FGF receptor by extracellular phosphate potentiates proteolytic protection of FGF23 by its O-glycosylation. Proc Natl Acad Sci USA. 116 (23) 11418-11427, 2019
  4. Sawatsubashi S, Joko Y, Fukumoto S, Matsumoto T, Sugano SS. Development of versatile non-homologous end joining-based knock-in module for genome editing. Sci Rep. 8 (1) 593, 2018

スタッフ

技術補佐員:寺奥 亜紀
技術補佐員:糸山 菜奈子