病態シグナル学分野

重点研究部門
脳神経系における細胞接着分子の機能解明
教授 水谷 清人
kiyohito_mizutani[@]tokushima-u.ac.jp

2005年 東京大学医科学研究所腫瘍分子医学分野 博士研究員
2006年 ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院 博士研究員
2009年 神戸大学大学院医学研究科分子細胞生物学部門 助教
2013年 神戸大学大学院医学研究科病態シグナル学部門 特命助教
2015年 神戸大学大学院医学研究科病態シグナル学部門 特命講師
2019年 神戸大学大学院医学研究科病態シグナル学部門 特命准教授
2023年 徳島大学先端酵素学研究所病態シグナル学分野 教授

研究概要

 神経細胞はシナプスを介して他の神経細胞と神経回路を形成し、高度な脳機能を制御しています。近年の様々な研究から、アルツハイマー型認知症(AD)や複合型認知症などの神経変性疾患では、神経細胞の周囲に存在するアストロサイトやミクログリアなどのグリア細胞や、血管などの変容によって引き起こされる脳内環境の変化が、病態の発症と進行に寄与していると考えられています。私共は、神経細胞-グリア細胞-脳血管の二者・三者共培養系を用いて、神経細胞の変性から神経細胞死に至る過程における細胞接着分子の役割と作用機構を解明し、神経変性疾患の病態を理解するだけでなく、その診断法や予防法、治療法の開発を目指しています。

神経回路の形成と制御における細胞間接着分子の機能解明

 生体の脳内では、アストロサイトの微細な突起の先端が神経細胞間で作られるシナプスに接着し、「三者間シナプス」を形成することが知られています。この三者間シナプスは、興奮性神経細胞と抑制性神経細胞の両者に対して重要な役割を果たし、神経細胞の活動を調節することが分かっています。しかし、三者間シナプスにおけるアストロサイト突起とシナプスとの接着の形成と維持の機構は未解明な点が多く残されています。私共は、in vitroで神経細胞とアストロサイトの二者を共培養する培養法を開発しています(図1)。
この培養法におけるアストロサイトは生体内に近い形態と機能を持ち、神経細胞との間で三者間シナプスを形成しています。これまでに、この培養法を用いて、三者間シナプスの形成と維持に関与する細胞接着分子を同定してきました(Nozawa et al., 2023)。現在は、これらの細胞接着分子の遺伝子欠損マウスを用いて、これらの分子の機能解析を進めています。

図1:神経細胞‒アストロサイトの二者共培養法
生体内のアストロサイトで観察されるような細かい枝分かれを持ち、シナプスとの間で三者間シナプスを形成し、突起先端にはアストロサイト機能分子が局在する、機能的にも生体的にも生体内に近いアストロサイトの培養法を開発しました(赤色、神経細胞(MAP2);緑色、アストロサイト(膜局在型GFP))。

神経細胞とグリア細胞の老化制御機構の解明

 ADでは、生理的な加齢により神経細胞が変性し、神経細胞死が引き起こされます。しかし、神経細胞の老化制御機構はほとんど未解明です。また、ADの発症・進展におけるアストロサイトやミクログリアなどのグリア細胞と神経細胞との相互作用の破綻機構も十分には解明されていません。私共は、神経細胞の変性と死の過程には、可逆的過程と不可逆的過程が存在すると考えています。この過程において、神経細胞保護型のグリア細胞は神経細胞の変性を阻害するだけでなく、変性した神経細胞の健常な神経細胞への回復を促進する可能性があります。それに対して、神経細胞障害型グリア細胞は神経細胞の変性と死を促進すると考えています(図2)。私共は、神経細胞とグリア細胞の老化制御機構とその破綻によるADの発症・進展機構を解明し、ADの早期診断法・根治療法の開発を目指します。

図2:グリア細胞の相互作用による可逆的・不可逆的な神経細胞の変性と死の過程の制御

最近の主要論文

  1. Nozawa O, Miyata M, Shiotani H, Kameyama T, Komaki R, Shimizu T, Kuriu T, Kashiwagi Y, Sato Y, Koebisu M, Aiba A, Okabe S, Mizutani K, Takai Y. Necl2/3-mediated mechanism for tripartite synapse formation. Development 150: dev200931 (2023)
  2. Sakakibara S, Sakane A, Sasaki T, Shinohara M, Maruo T, Miyata M, Mizutani K, Takai Y. Identification of lysophosphatidic acid in serum as a factor that promotes epithelial apical junctional complex. J. Biol. Chem. 298: 102426 (2022)
  3. Mizutani K, Miyata M, Shiotani H, Kameyama T, Takai Y. Nectin-2 in general and in the brain. Mol. Cell. Biochem. 477: 167-180 (2022)
  4. Mizutani K, Miyata M, Shiotani H, Kameyama T, Takai Y. Nectins and Nectin-like molecules in synapse formation and involvement in neurological diseases. Mol. Cell. Neurosci. 115: 103653 (2021)

スタッフ

助教:宮田 宗明
助教:塩谷 元
特任助教:松井 滉太朗