免疫系発生学分野

プロテオゲノム研究領域
胸腺内Tリンパ球選択機構の解明
准教授 大東 いずみ
ohigashi@genome.tokushima-u.ac.jp

1998年 徳島大学医学部栄養学科 卒業
2000年 徳島大学大学院栄養学研究科 修了
2011年 医学博士取得(徳島大学にて論文により学位取得)
2011年 徳島大学疾患プロテオゲノム研究センター 特任助教
2016年 徳島大学疾患プロテオゲノム研究センター 講師
2016年 徳島大学先端酵素学研究所 准教授

研究概要

 免疫応答の司令塔として生体防御の中心的役割を担うTリンパ球は、造血幹細胞に由来し胸腺で分化し選択されます。私たちは、Tリンパ球が胸腺内でどのように分化し選択されるのか、胸腺微小環境の分子本態解明に視点を据えて研究しています。生命システムの頑強性と適応性の原理解明につながるからですし、免疫疾患発症機構の解明と根本的治療法の開発が展望されるからです。もちろん、胸腺のことがだいすきだからです。
 胸腺におけるTリンパ球の分化過程には、生体にとって有用な幼若Tリンパ球だけが成熟を許される「正と負の選択」のプロセスが内包されており、この選択プロセスは「自己と非自己を識別し外来非自己のみ攻撃する」という、私たち人間が地球上で健康に生きていくために必要な免疫システムの根幹的性状の形成に不可欠です。胸腺皮質にて分化を開始したTリンパ球は、核内でのゲノム構造の不可逆的変更(VDJ再構成)により任意の特異性を持つ抗原レセプターを発現し、外来抗原に対して認識特異性を持ち得る細胞のみが有用な細胞の候補として生存と成熟を誘導され髄質へと移動します(正の選択)。胸腺髄質では、自己の生体成分に強く反応してしまう認識特異性を持つ細胞は有害な細胞として排除され(負の選択)、また、自己寛容の保証を担う制御性T細胞の生成が誘導されることによって、自己生体への寛容確立がもたらされます。
 私たちは、正の選択をうけて成熟するTリンパ球が胸腺皮質から髄質へと移動するには髄質上皮細胞に発現されるCCR7ケモカインシグナルが必須であり、CCR7依存性の髄質移動が中枢性自己寛容の確立に必須であることを明らかにするとともに(上野ら2004、黒部ら2006)、胸腺皮質上皮細胞特異的なプロテアソーム構成鎖β5tを同定し、β5tを含む胸腺プロテアソームがCD8陽性キラーTリンパ球の正の選択に必須であることを明らかにしてきました(村田ら2007、新田ら2010)。また、自己寛容の確立を制御する胸腺髄質の形成に正の選択を受けた成熟Tリンパ球由来のサイトカインRANKLが必要であること(彦坂ら2008)、髄質上皮細胞に発現されるケモカインXCL1が樹状細胞を誘引することでTリンパ球の自己寛容確立を担うこと(雷ら2011)を見出しました。最近では、これらの知見に基づいて、胸腺皮質上皮細胞に依存する正の選択とはTリンパ球機能的有用性のチューニングプロセスであること(高田ら2015)、胸腺髄質上皮細胞は胎生期から新生仔期の胸腺皮質上皮様前駆細胞に由来すること(大東ら2013,2015)を明らかにしています。現在更に、これら独自の成果に基づいて胸腺微小環境の分子本態の解明を目指しています。
 私たちは胸腺でのTリンパ球分化選択を興味の中心に据え、「なぜだろう・なぜかしら」という個人個人のすなおな疑問にすなおに立ち向かうように心がけています。科学とは、あくまで個々の人間による知的活動であるという基本姿勢に立ち、そういった個人が共同して生体の新たな仕組みを解き明かしていく場が研究室であるとの認識を共有することによって、人類の知的財産蓄積に貢献したい、また、免疫疾患の克服に寄与したい、と考えています。研究内容に興味を共有し、研究活動によって自身の発露を目指す、諸君の参加を期待しています。

胸腺でのTリンパ球分化は、胸腺皮質に移入してきたT前駆細胞の抗原受容体発現とそれによる正と負の選択、正の選択を受けたTリンパ球の髄質への移動と髄質での更なる自己寛容確立といった、異なる胸腺微小環境を巡るダイナミックな細胞移動を伴う。私たちの研究室は、胸腺微小環境と細胞移動に視点をひろげて、胸腺でのTリンパ球分化機構の解明を目指している。これまでに、胸腺皮質上皮細胞特異的に発現されるβ5tを含む胸腺プロテアソームがCD8陽性キラーTリンパ球の正の選択に必須であること、Tリンパ球が胸腺皮質から髄質へと移動するには髄質上皮細胞に発現されるCCR7ケモカインシグナルが必須であること、自己寛容の確立を制御する胸腺髄質の形成には正の選択を受けた成熟Tリンパ球由来のサイトカインRANKLが必須であること、髄質上皮細胞に発現されるケモカインXCL1が樹状細胞を誘引することでTリンパ球の自己寛容確立を担うこと、などを明らかにしてきている。

最近の主要論文

  1. Sakata M, Ohigashi I, Takahama Y.
    Cellularity of thymic epithelial cells in the postnatal mouse
    The Journal of Immunology. 200:1382-1388 (2018)
  2. Kozai M, Kubo Y, Katakai T, Kondo H, Kiyonari H, Schaeuble K, Luther SA, Ishimaru N, Ohigashi I, Takahama Y.
    Essential role of CCL21 in establishment of central self-tolerance in T cells.
    Journal of Experimental Medicine. 214:1925-1935(2017)
  3. Takahama Y, Ohigashi I, Baik S, Anderson G.
    Generation of diversity in thymic epithelial cells.
    Nature Reviews Immunology. 17:295-305 (2017)
  4. Uddin MM, Ohigashi I, Motosugi R, Nakayama T, Sakata M, Hamazaki J, Nishito Y, Rode I, Tanaka K, Takemoto T, Murata S, Takahama Y.
    Foxn1-β5t transcriptional axis controls CD8+ T cell production in the thymus.
    Nature Communications. 8:14419 (2017)
  5. Ohigashi I, Ohte Y, Setoh K, Nakase H, Maekawa A, et al.
    A human PSMB11 variant affects thymoproteasome processing and CD8+ T cell production.
    JCI Insight. 18:2 (2017)

スタッフ

特命教授:髙濵 洋介

米国 国立衛生研究所

助教:藤森 さゆ美

金沢大学大学院自然科学研究科 修了・薬学博士

専門研究員:近藤 健太

米国 国立衛生研究所

実験補佐員:久間 ひとみ
B棟共通機器管理補佐:竹口 雅代
事務補佐員:山下 布紗乃