神経変性病態学分野

基幹研究部門
プリオン病研究の新展開に向けて
教授 坂口 末廣
sakaguchi[@]tokushima-u.ac.jp

1989年 長崎大学医学部 卒業
1994年 長崎大学大学院医学研究科 博士課程修了
1994年 長崎大学医学部細菌学講座 助手
1999年 長崎大学医学部細菌学講座 講師
2005年 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染分子病態学講座 助教授
2006年 徳島大学分子酵素学研究センター分子細胞学部門 教授
2016年 徳島大学先端酵素学研究所 教授

研究概要

 神経細胞に発現する正常プリオンタンパク質が構造変化を起こすと、感染性タンパク質「プリオン」に変化しプリオン病を起こす(図 1)。当分野では、プリオンタンパク質の正常機能、プリオンタンパク質がプリオンに変化するメカニズム、及びプリオン病の神経細胞死のメカニズムを解明することを目的とし研究に取り組んでいる。

プリオンタンパク質の神経機能

 我々は、遺伝子改変マウスを用いてプリオンタンパク質の神経機能を明らかにした(Nature, 1996)。また我々は、プリオンタンパク質のC末領域のホモログ分子を発見し、ホモログ分子が神経毒性を発揮すること、そしてプリオンタンパク質はその神経毒性を阻害することを明らかにした(JBC, 2008)。今後、プリオンタンパク質の神経機能を分子レベルで明らかにして行く。

プリオンタンパク質の抗炎症活性

 我々は、プリオンタンパク質が肺上皮細胞に発現し、致死性のインフルエンザウイルス感染に対して防御的に機能することを見出した(PLoS Pathog, 2018)。プリオンタンパク質はインフルエンザウイルス感染により産生される活性酸素の産生を抑制し、その結果肺上皮細胞の細胞死を阻害し抗インフルエンザ活性を発揮していた。また、抗プリオンタンパク質抗体がマクロファージを抗炎症生M2マクロファージに分極させ、その結果インフルエンザウイルス感染によるマウスの死亡率を著明に改善すること(PLoS Pathog, 2020)や高カロリー・高脂肪食による非アルコール性脂肪肝炎の進行を抑制することを明らかにした(CMGH, in press)。今後、プリオンタンパク質をターゲットにした新規の抗炎症薬の開発を進めて行く。

プリオン複製の分子メカニズムの解明

 我々は、最近、プリオンが自身の増殖を促進するために、自身が分解されないようにする機構を有していることを明らかにした(PLoS Pathog, 2017)。現在、プリオンによる自身の分解阻害機構のメカニズムを研究している。また、ノーベル賞を受賞したプルシナー博士が提唱したプリオン仮説によると、プリオンが感染するとその構成成分である異常プリオンタンパク質が正常プリオンタンパク質の構造を何らかの機構を介して変化させプリオンの増殖が起こると考えられている。しかし、ほとんどのプリオン病のケースではプリオン感染以外の原因で発症していると考えられる。しかし、その原因は不明である。我々は、現在、この原因の解明に取り組んでいる。

プリオン病の神経変性メカニズムの解明

 プリオン病の神経細胞死のメカニズムは不明です。我々は、異常プリオンタンパク質がエンドソームに蓄積し、ポストゴルジ小胞輸送を阻害することを見出した(Nature Commun, 2013; 図2)。つまり、プリオンが感染すると神経細胞の細胞膜蛋白の機能が障害され、細胞死が起こる可能性が考えられた。現在、プリオン病の神経細胞死の分子メカニズムの解明に向けてさらなる研究を続けている。

図1.プリオン病におけるプリオン蛋白構造変化

図2.プリオン病における神経細胞死のメカニズム

最近の主要論文

  1. Hara H, Chida J, Batchuluun B, Takahashi E, Kido H, Sakaguchi S: Protective Role of Cytosolic Prion Protein against Virus Infection in Prion-Infected Cells.
    Journal of Virology 98(9):e0126224 (2024).
  2. Chida J, Hara H, Uchiyama K, Takahashi E, Miyata H, Kosako H, Tomioka Y, Ito T, Horiuchi H, Matsuda H, Kido H, Sakaguchi S.
    Prion protein signaling induces M2 macrophage polarization and protects from lethal influenza infection in mice.
    PLoS Pathogens 16(8):e1008823 (2020).
  3. Chida J, Hara H, Yano M, Uchiyama K, Das NR, Takahashi E, Miyata H, Tomioka Y, Ito T, Kido H, Sakaguchi S.
    Prion Protein Protects Mice from Lethal Infection with Influenza A Viruses.
    PLoS Pathogens 14(5):e1007049 (2018).
  4. Uchiyama K, Tomita M, Yano M, Chida J, Hara H, Das NR, Nykjaer A, Sakaguchi S.
    Prions Amplify through Degradation of the VPS10P Sorting Receptor Sortilin.
    PLoS Pathogens 13(6): e1006470 (2017).
  5. Uchiyama K, Muramatsu N, Yano M, Usui T, Miyata H, Sakaguchi S.
    Prions disturb post-Golgi trafficking of membrane proteins.
    Nature Communications 4:1846 (2013).
  6. Sakaguchi S, Katamine S, Nishida N, Moriuchi R, Shigematsu K, Sugimoto T, Nakatani A, Kataoka Y, Houtani T, Shirabe S, Okada H, Hasegawa S, Miyamoto T, Noda T.
    Loss of cerebellar Purkinje cells in aged mice homozygous for a disrupted PrP gene.
    Nature 380: 528-531 (1996).

スタッフ

講師:千田 淳司

2006年 徳島大学分子酵素学研究センター酵素分子化学部門 特任助教
2008年 徳島大学疾患酵素学研究センター応用酵素・疾患代謝研究部門 助教
2012年 徳島大学疾患酵素学研究センター神経変性疾患研究部門 助教
2022年 徳島大学先端酵素学研究所神経変性病態学分野 講師

助教:Nandita Rani Das

2024年 徳島大学先端酵素学研究所神経変性病態学分野 助教